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『月刊現代』2008年4月号特集記事「告発!偽りの黒毛和牛」

本日は、2013年3月最後の日です

このブログを創めて1ヵ月経たない頃に、何者ともわからない私に
このブログを見つけてくれたある方が、雑誌を送ってくださることになったのです

その後の2011年12月5日から13日までの9日間
月刊誌の記事をタイピング練習しました

カテゴリ「月刊現代」に、練習問題その1 から、その9 まであります
ですが、ずっとそのまま、日記とともにありましたので、記事のみでまとめました

これは、『月刊現代』2008年4月号、超大作の安愚楽牧場実態暴露記事です

4月号というのですから、3月に発売されたのでしょう
ですから、ちょうど丸5年ということで、3月中には日記にしておきたかったのです

5年前はもちろん、アグラ破綻まで、この記事の存在を私は全く知りませんでした

これが出たときも一部の人だけで、大きな問題にはならなかったようです

もし、店頭で表紙を見たとしても、安愚楽牧場のことだなんて
信じきっているオーナーの目には映らなかったかも知れません
恋は盲目と言いますものね
相思相愛の当事者にはバイアスがかかるものです

目次にも、「安愚楽牧場」の文字は出てきません
記事に初めて、小さい文字で出てきます
やはり、現存する会社のことを告発するというのは大変なことなのでしょう
当時、また書いたら訴えるぞ、みたいなことをどこかで見ました
三ヶ尻社長が言ってたって・・・

安愚楽牧場が破綻してから1年を過ぎた2012年9月13日
共同通信社の斉藤友彦氏が『和牛詐欺』を出版されましたが
このジャーナリストさんも、機会があれば、今度は思いっきり書いてほしいですね
安愚楽はもう潰れてますから、安愚楽には訴えられません・・・・・
その時は、私、買いますよ、絶対に!(*^^)v
サイン会でもしてくれたら、会いに行きます・・・・・


『月刊現代』の表紙には、こう書かれています

 ●スクープ 業者が悪質手口を暴露
 告発!偽装和牛
 ニセ高級黒毛和牛が出回っている


月刊現代2008年4月号
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特集 その食品は信用できますか

不正に荷担させられた委託農家の悲鳴を聞け

告発!偽りの黒毛和牛

 素性の不確かな牛を「黒毛和牛」に仕立て上げ、健康を害するエサで
 育てた牛の肉を出荷する―――黒毛和牛市場では日本最大の「安愚楽
 共済牧場」が行っている消費者への裏切りを許してはならない

                    大平 誠
 (ジャーナリスト)


 中国製冷凍ぎょうざの農薬混入事件で、輸入食品・食材の安全性が取り沙汰され、4割を切る日本の食品自給率の低さがクローズアップされている。中華街の飲食店ですら食材の「チャイナフリー」を謳って消費者対策に努める様子が伝えられているが、はたして「国産」というだけで我々の口に入る食物の安全性や信頼性が保障されていると言い切れるのだろうか。

 これから伝えるのは、高級ブランドとして定着した「黒毛和種」の牛肉を巡り、苦境に立たされている末端の畜産農家の叫びを起点にした構造的な問題だ。農家は、黒毛和種と証明できない牛を黒毛として出荷する偽装工作の片棒を担がされたばかりか、牛の健康を害するエサだと分かりながらそれを強制的に牛に与えさせられていた。これら農家を束ねる”胴元”は、和牛を投資対象として一般から資金を集め、肉牛保有頭数「日本一」にまで肥大した和牛預託商法の生き残りである。

 取材を進めるほどに農林水産行政の不備と、BSE(牛海綿状脳症)問題が残した深い闇が浮き彫りになった――。

「誕生は1981年、栃木県那須で一頭の牛から始まりました」
「有限会社安愚楽共済牧場」(本社・栃木県那須町、三ヶ尻久美子社長。以下、安愚楽)はパンフレットなどで、自社の沿革をそう伝えている。現在は那須の本社牧場を含め直営が30余、繁殖や肥育を委託している契約牧場は300を越える。北海道から沖縄まで全国で展開しており、肉牛保有頭数は約13万頭。そのすべてが「黒毛和種牛」という。日本国内の黒毛和種牛の総数は約140万頭だから、安愚楽はその一割近くを占める巨大畜産業者だ。
 
 肉牛を育てる農家は通常、工程管理の違いから繁殖農家と肥育農家に分けられる。繁殖農家が生後9ヶ月前後まで育てた牛は「子牛市場」に出荷され、肥育農家はそこで選んだ子牛を買い付け、食肉になるまで大きく育てる。
 
 一方、安愚楽は、子牛市場を介さずに自社内で繁殖と肥育を行う、「一貫経営」とされる牧場だ。委託している繁殖農家に母牛を預け、生まれた子牛を半年程度管理させ、 肥育農家に移動させて生後32ヶ月前後まで育てて出荷する。直営の牧場でも繁殖と肥育に分けて、同様の飼養を行っている。

 しかし、安愚楽は単なる大規模畜産農家ではない。「黒毛和種牛委託オーナー制度」と称する仕組みで母牛などへ投資を募り、生まれた子牛を食肉となるまで育て、その売却益をオーナーに還元する、いわゆる和牛預託商法の業者だ。

 和牛預託商法は、「子牛の飼育に出資すれば、成牛売却時の利益で多額の配当が得られる」などの謳い文句でバブル崩壊後の超低金利時代に人気を集め、ピーク時には17業者が乱立した。しかし、出資法に触れるような高金利を謳ったり、飼養頭数を誇大表示してかき集めた出資金を詐取するなどの問題が続発し、97年に相次いで業者が摘発され、「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」(預託法)に家畜が追加される契機となった。業者のほとんどが淘汰され、07年暮れに警視庁が、残る二つのうちの「ふるさと牧場」(東京都港区)を家宅捜索、事実上破綻した。ふるさと牧場への投資者は7881人。その4倍近い2万8000人が投資している安愚楽は、業界の先駆者であり、唯一の生き残りだ。

「安愚楽は私に授精簿(授精証明書)を改竄させた。一番簡単で、最も悪質な手口の偽装ですよ」

 取材に訪れた私にこう切り出したのは、和牛の一大産地、鹿児島県南部の山間で10年以上、安愚楽と契約をしている繁殖牧場の経営主だ。この経営主は家畜人工授精士の資格を持ち、獣医と同じように、家畜改良増殖法に基づいて人工授精を行い、授精証明書を発行する権限を持っている。

 平然と偽装を要求

 ここで安愚楽の”売り”である和牛の高級種、黒毛和種について説明しよう。そもそも「和牛」と表示できる牛肉とは、国内で出生・飼養された牛で、家畜改良増殖法に基づく登録制度等で①黒毛和種②褐毛和種③日本短角種④無角和種⑤これらの品種間の交配による交雑種――と証明されることが必要だ。この証明がない未登録の肉牛は、どこにも分類されないため、外国種を含めた「その他の肉専用種」にしかならない。

 この牧場には安愚楽から預かった繁殖母牛約500頭がおり、うち約200頭が未登録だという。授精証明書とは、どのメス牛にどの種牛の精液をつけたかを記入するものだ。種牛の情報は冷凍精液についてくるラベルに登録番号等が網羅されており、これを証明書に貼付する。メス牛は名前や生年月日、登録番号、さらにこのメス牛を生んだ母牛の登録番号を記載する欄がある。登録済の場合、種別の分類として黒毛和種を表す「黒」に丸印を付けるが、未登録の場合は「その他の肉専用種」を示す「その他」に丸を付けなければならない。

 牧場主は当然のように、未登録のメス牛に授精した際、「その他」に丸を付けて授精証明書を安愚楽に提出した。ところが安愚楽は、「その他」に付けた丸印を消し、訂正印を押して送り返すよう強要したというのだ。

 この牧場主は、安愚楽の宮崎支店の担当者に詰め寄ったときの会話を鮮明に覚えている。

「いくら何でもおかしいと思ったから問い合わせの電話をしたんです。『黒毛として出荷したいからこんなことさせるんやろ』と問い詰めると、担当の女性は『そうなんですよねえ』と平然と言ってのけました」

 なぜ改竄を要求したのか。理由は簡単だ。黒毛和種は高く売れるからである。成牛として出荷される場合は肉質までランク付けされるから一概に比較できないが、子牛市場の市場価格を見れば差は歴然だ。農水省生産局畜産部がまとめた07年度第2四半期の子牛1頭の平均売買価格は「黒毛和種」が49万5600円に対し、「その他」は24万7800円。2倍である。

 この登録制度を支える家畜登録機関は種類ごとに分かれており、黒毛和種の場合は社団法人全国和牛登録協会(本部・京都市)が行っている。

 和牛の登録制度の歩みは大正期にまで遡る。改良和種の研究が進み、鳥取県が1920(大正9)年に登録事業を始め、翌年にかけて主要産牛県が相次いで追随。35(昭和10)年に初めて和牛共通の審査基準がつくられた。37(昭和12)年に当時の農林省が登録事業の一本化を目指し、中央団体として中央畜産会を指定、登録事業が全国的に急速に普及した。その後、黒毛、褐毛、無角の3種が固定品種として認められ、戦後の48(昭和23)年に全国和牛登録協会が設立されている。

 登録制度開始当初は基礎牛の整理から始まり、その産子が補助登記牛へ、補助登記牛の産子が登録牛へという3代を経て登録牛となる道が開かれていた。大多数が登録牛となった現在では、父母ともに登録牛でないと登録できない閉鎖登録になっている。黒毛和種の子として生まれても、登録を受けずに母牛になれば、どんな種牛と掛け合わそうと、その産子や子孫は永遠に黒毛和種として登記も登録もできない。従って、授精証明書では「その他」にしか分類できなくなる。

 登録牛の両親から生まれた牛が、子牛登記を経て初めて登録する資格が発生する。登録されるのは、繁殖用に回るオスの種牛と母牛になるメスだ。肥育に回る牛は登記のみで登録はされない。全国和牛登録協会に黒毛和種登録の現状を聞いてみた。

「現在、黒毛和種としての登録数は約65万頭でほとんどがメスです。繁殖牛の95%は登録されているはず。そこから生まれてくる子牛が毎年約47万頭。うち半分のオスの中で種牛として登録されるのは200から300頭で、それ以外はほとんどが肉になります。メスで繁殖母牛になるために登録するのは23万頭のうち3分の1ぐらいですね」

 社団法人中央畜産会が06年2月に集計した家畜改良資料によると、黒毛和種の総数は140万1491頭で、繁殖用のメス66万8354頭、オス1981頭。残りは肥育牛だから、同協会の「65万頭」という登録数に準拠すれば約97%が黒毛和種の「登録牛」であるといえる。

 BSE問題の前と後

01年9月の国内で初めてBSE感染牛が発見され、同10月に牛の全頭検査が開始されるとともに、国産牛の買取制度が始まるや、その制度を悪用する事件が相次いだ。安価で仕入れた輸入牛肉の在庫を国産牛と偽って買い取らせる手法に食肉業界大手が軒並み手を染め、補助金を不正に取得したとして捜査当局が摘発した。偽装に関わっていなくても、風評被害で消費者の牛肉離れが進み、末端の精肉店や焼肉屋までが直撃を受け、バタバタ倒れていった。

「牛の”氏素性”までハッキリ辿れないと、怖くて口に入れられない」

こうした消費者意識の高まりを受け、市場も管理を厳格化し、法整備も進んだ。私に告発した牧場主が授精証明書の改竄をさせられたのは、BSE騒動の後である。しかも、現在はメス牛の分類項目に何も丸印を付けない状態で提出させられているという。安愚楽は、厳格になった市場への出荷基準をすり抜けるために、委託農家に違法行為を強いていると言えよう。

 安愚楽のような「一貫経営」がBSE騒動以降、対応に変化を求められたのには理由がある。全国和牛登録協会の解説は、次のようなものだ。

「BSE以前は比較的大らかで、子牛市場を通さない一貫経営のところは、誰々さんの牛は黒毛だという自己申告だけで黒毛和種として通用していた。要はその牧場の”顔”で売れていたのが、BSE以降はそうもいかなくなったんですよ」

 市場が消費者の動向を考慮して、誠実に対応した結果がBSE発生以前より厳格化した流通システムである。東京都内の食肉市場会社の担当者は、市場の現状を語る。

「BSE以降は何らかの証明書をつけてくれということになった。法的根拠というより、申し合わせです。証明書がないと売り買いできなくなったんで、一貫経営のみなさんも登記するようになったが、未登録牛が淘汰されるまでは受精証明書でもいいということですよね」

 平均以上にお産させられる母牛

市場だけではなく法の整備も進んだ。BSEの蔓延を防ぐことと畜産関連産業の発展、消費者の利益の増進を目的に、03年末に施行された「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(牛肉トレーサビリティ法)に基づき、国内の牛全頭に10桁の耳標(個体識別番号)を装着することが義務づけられた。独立行政法人家畜改良センターの個体識別番号検索を利用すれば、この番号を打ち込むことで誰でも簡単に牛の生育・流通履歴や種別が確認できるようになった。

 市場も法律も消費者の信頼に応えるべく変わった。しかし、完璧ではない。鹿児島の牧場主が偽装した授精証明書に基づいて、生まれた子牛はやがて黒毛和種として市場に流通し、個体識別番号で検索しても種別は堂々と「黒毛和種」と表示される。人工授精師が自信を持って「黒毛和種と証明できない」と証言している牛が、である。せっかく出来たトレーサビリティ(追跡可能)制度も、和牛登録協会の登録番号とリンクしておらず、消費者にとってはブラックボックスが増えたとしか言いようが無い。

 偽装した鹿児島の牧場主は言う。

「黒毛とホルスタインを掛け合わせたものをF1と言いますが、これは見た目は黒毛なんです。つまり、牛の見た目だけでは判断できない。だからこそ余計に、登録制度には重みがあるんです」

 農水省の見解は、次のようなものだ。

「もちろん和牛登録協会の登録があるのがベストで、なるべく登録証を取るように指導していますが、何らかの証明が出来れば我々は黒毛和種として取り扱っています。授精証明書だけでなく、父牛と母牛が黒毛ですよという獣医さんの証明書であったり。しかし、牛の管理者である農家の責任者が『黒』だと思ってもいない牛を『黒』だと言い張るのであれば、トレーサビリティ法違反です」(消費・安全局畜水産安全管理課牛トレーサビリティ監視班)

 何とも玉虫色でスッキリしない。種別表示を登録に一本化しない限り、ブラックボックスは延々と続く。ある登録関係者は、
「安愚楽は一時期、登記・登録をやめていて、BSE後に再度登記・登録をやり始めた。最近になって物凄く増えて、5万頭ぐらいは登録牛になってきた。早く淘汰したいんでしょうね」
 
 と語るが、現状を把握している委託農家の見方は異なる。

「安愚楽はBSE後に、繁殖母牛を全て登録牛に切り替えるという通達まで出したんですよ。しかし、結局は何も変わらなかった。だからうちにはまだ200頭も未登録の母牛がいるんです。おまけに母牛は普通、7回か8回子供を産めばそれでお役御免なんですよ。でも安愚楽の場合は12~13回はザラで、全然母牛を入れ替えてくれない。お婆さん牛は種付きも悪いし、必然的に生まれて来る子も小さくて体の弱い牛が多くなります」(偽装に手を染めた鹿児島県の繁殖農家)

「うちの牛は長生きでね、まだ半分ぐらい未登録だよ。安愚楽にも、『和牛なのに何で登録しないの』って何度も入れ替えを提言してんだけど聞く耳持たないもん」(北海道西部の繁殖農家)

 しかも、授精証明書の偽装によって罰せられるのは"実行犯”たる末端の農家だけだという。

「トレサビ法では、牛の管理者が適切に届けをしなければならないことになっている。いくら預託元から言われてやったと主張しようが、やった農家が罰せられる」(農水省同班)

現行法では限界があるのだろうが、生産者農家を取り巻く構造的な問題に踏み込んで改善しようという意識は感じられない。被害申告を軽視し、後手後手に回って被害を拡大させた中国製冷凍ぎょうざ事件への対応のまずさを彷彿とさせる。

 杜撰な授精管理

 一方、告発した鹿児島の牧場主は、人工授精師資格の剥奪も覚悟したうえで証言を続けた。それは安愚楽の恒常的な授精管理の杜撰さを物語っている。

「実を言うと安愚楽では、BSE以前は授精簿(授精証明書)をつける必要もなかったんです。冷凍精液には一本に一枚ずつその種牛の登録証明のラベルがついてきますが、授精簿に貼付しないから、種付けしてもラベルがどんどん余る。ところがBSE以降は出荷のために授精簿が必要になったので、私が管理していた余ったラベルは回収されたんですよ。そのラベルを基に適当な授精簿を作っても、それが正しいものかどうか証明できない。どの牛にどんな種を付けたかなんてDNA鑑定でもやらない限り分からないですから。安愚楽のやり方はメチャクチャですよ」

 肉牛だろうが乳牛だろうが、授精簿は人工授精の度に記入しなければならない。社団法人日本家畜人工授精師協会も、苦々しく指摘した。

「授精証明は、授精したときにメス牛の管理者が発行するのが原則です。次の世代の交配の信用性にもつながる出発点ですから、時間的なズレで間違いが起こったら結果的に問題が跳ね返ってきます」

 だが、安愚楽のシステムが抱える問題点は、素性の不確かな牛を黒毛和種だと偽装して市場に流通させるばかりではない。直接的に我々の食の安全を脅かしかねない重大な問題を孕んでいた。安愚楽が委託農家に対し、「全国統一」で奨めているエサの問題である。

 尿石、血便、血尿の出るエサ

安愚楽が委託農家と交わしている契約の根幹は、1日につき牛一頭当たりに支給される預託料(委託管理費と諸経費)だ。繁殖農家の場合、妊娠期間中の母牛は480円、子牛は生後90日まで250円、それ以降は380円。
契約農家はこの中からエサ代を捻出し、概ね生後半年まで子牛を育てる。この子牛は安愚楽が引き取り、直営もしくは契約の肥育農家に回される。

肉牛のエサは「粗飼料」と呼ばれる牧草と「濃厚飼料」と呼ばれる穀類(トウモロコシや大麦、小麦フスマ等)の配合飼料。このうち農家を悩ませているのが、5年ほど前から安愚楽が委託農家に強制的に買わせている「指定配合飼料」である。「BSE対策で肉骨粉の入っていない安全で統一のエサを」という名目で導入されたものだ。

北海道東部の元委託繁殖農家は、このエサのお陰で牛が次々に病気になり、2年前に安愚楽を撤退する契機になったと言う。

「これを使い出したら牛たちが尿石を発症するようになったのです。エサが原因としか思えなかったので、何度も成分の配合を見直すように進言したんですが、『尿石になってるのはお前のところだけだ。お前の管理の問題だ』と安愚楽は認めようとしない。他のエサを使うことも許されないので、尿石を防ぐためにはエサの量を減らすしかありませんでした。結局、基準体重に満たない小さな牛しか育たず、ペナルティの罰金が嵩んでいきました」

ペナルティは、主に「事故率」と呼ばれる子牛の死亡率と、DG(1日あたりの子牛の増体重)に科せられる。

北海道東部の牧場主は続ける。

「私のペナルティは単年で1000万円近くにもなって、安愚楽を辞めたいまでも払い続けています。事故率は7%以上だとペナルティが発生する。確か最後は一頭当たり5万円でした。つまり100頭飼って10頭死んだら、7頭を超えた3頭分に対する計15万円の罰金ですよということです。うちは安愚楽をやっていた通算で事故率は11%ぐらい。安愚楽の繁殖農家の平均事故率は20%あると言われていますから、決して悪い成績ではないんです。罰金は他にも、DGが0.6kgを切ると1頭当たり5万円とか、実に厳しい内容でしたね」

 はたして安愚楽の言うとおり、牛の尿石は「お前の管理の問題」なのだろうか。取材すると、安愚楽の複数の委託農家から、「指定配合飼料」に切り替えてから牛の健康被害が発生したとの証言を得た。

沖縄県の委託繁殖農家も同じ悩みを抱えている。

「一緒だよ。うちもなった。指定配になってから母牛に血便、血尿が出て、種付きも悪くなった。相談した獣医に『栄養バランスが相当悪くなってる』と指摘されたから安愚楽に抗議したけど、畜産のイロハも知らない職員に『管理が悪い』で片付けられた。こっちは牛飼って何十年にもなるのに、素人からそんなこと言われる覚えないよ。仕方がないからバレないように、遠くの会社から飼料を買って使ってる。じゃないと牛が死んじまうよ」

 北海道西部の委託繁殖農家は言う。

「メーカーの品質表示がついてくるが、本当にその成分通りの構成なのかどうかは分からない。ただ、ビタミンが足りないという感触はあるね」

 私が取材した安愚楽の委託農家は、例外なくこの指定配合飼料に変更したことで、牛が血便、尿石で苦しんだり、種付きが悪くなったと証言している。さらに「同じ成分配合のエサを飼料会社に頼んだらはるかに安く仕入れられる」という意見も共通していた。「全国統一」というからには、農水省が「指定配合飼料」の成分検査を行ったほうがいいのではないだろうか。

 追跡できない牛肉

 こうして育てられた安愚楽の牛は、いまも市場へと出荷されて精肉となり、我々の食卓に届いている。前述したとおり、牛トレーサビリティ制度が目指したものは、消費者自身も自分の口に入る肉の素性を確かめることにある。安愚楽もパンフレット等で〈トレーサビリティに対応した体制を確保し、『自分がオーナーになった牛』も、この個体識別の仕組みで確認できるので安心〉と謳っている。

 私は安愚楽の直売店で牛肉を買い求め、付いていた耳標番号から生産者を追ってみた。すると、意外な結果が出た。出生から屠場に搬入されるまでの履歴が、「北海道→秋田県→岩手県」と県単位でしか表示されなかった。いったい誰のための追跡制度だ。

 これについて農水省トレーサビリティ監視班はこう答える。

「もちろん家畜改良センターの台帳では、全牛の履歴を把握していますが、本人の同意がなければ牧場の名前や住所はネット上には出しません。現状ではネット上で名前を出しているのは6割ぐらいです。基本的に、BSE発生時に牛を特定して蔓延を防ぐという趣旨なのでご理解いただきたい」

 農家の同意がないかのような言い分だが、そうだろうか。

「うちら、牧場の名前が出ることに何の異論もないよ。だから安愚楽にも言ったよ。『何で出さないんだい、おかしいべ』って。そうしたら『載せる義務がないからだ』で終わり。裏を返せば、和牛のオーナーに調べられたら困ることがあるんじゃないの」(前出の北海道西部の委託繁殖農家)

 トレーサビリティの10桁の番号とは別に、安愚楽の牛は「OB2984」などアルファベットと4桁の数字を組み合わせた独自の耳標を付けている。これに関して九州地方のある委託繁殖農家が興味深い証言をしてくれた。

「ある日、安愚楽の職員が『明日オーナーの見学者が来るんで、この番号外してこれに付け替えて下さい』って20個ほど違う耳標を持って来た。何で今のままじゃいけないのか聞いたけど、とにかく付け替えて、見学が終わったら元の耳標に戻せと指示されました」

 安愚楽の「牧場だより」では〈安愚楽牧場の黒毛和牛は1981年の創業以来、全頭、耳標で管理。自社独自の耳標と行政の統一耳標をもとに全ての牛をコンピュータで管理しながら、移動履歴や給餌の状況などが瞬時にわかるシステムを構築しています〉と謳っている。だが、これらの証言やトレサビ制度でも履歴の確認が困難な状況を見る限り、実態は異なる。安愚楽は委託農家、投資家、消費者に対し、あまりにも不透明な組織と言わざるをえない。

「義務はなくても、黒毛和牛のブランド力や品質を考えれば、普通は誰が育てたのか載せるわけです。そのための追跡制度なんですから。安愚楽が載せないのは、委託農家同士が連絡を取って情報交換することが怖いからでしょう」(鹿児島県の委託繁殖農家)

 この証言の通り、安愚楽は委託農家同士の横の連絡回路を遮断し、個々の農家を孤立させる。

 北海道西部の繁殖農家が言う。

「農家がまとまって百姓一揆起こされるのが怖いんだべ。道内の委託農家の成績表があるんだけど、牧場の名前は書いてなくて番号だけよ。仲間は教えない、種は選べない、母牛の血統も明かさない。それに加えて指定配食わされて、出て来た牛の体が小さいから罰金と言われてもね。血統が分かれば組み合わせに応じて飼料管理を工夫すればいい牛も育てられる。でも予備データがなければそれも出来ない。抗議すると『辞めてください』だからね。うちら、育てた子牛がどこの肥育農家に行ったのかも分からないんだよ。肥育農家も大変さ。どんな育て方された子牛なのかも分からないんだから」

 委託農家が誇りを傷つけられても、無理難題を呑まざるを得ないのはなぜなのだろう。安愚楽と縁を切って個人経営に戻ればいいではないか。ところがそうはいかない事情がある。先に紹介した厳しいペナルティと「牛を引き上げるぞ」という脅し文句で、委託農家は雁字搦めになっているのだ。

 授精簿の偽装に関わった鹿児島県の繁殖農家の証言を聞こう。

「安愚楽が牛を増やしてくれるというから、繁殖も肥育も農家はみんな借金を抱えてまで牛舎を大型にしたんです。うちも5年前には1億円かけて牛舎を建てて、そのときにはドーンと牛を入れてくれて、ピーク時には母牛が700頭いました。ところが『お前のとこの子牛は小さいし脂肪が多いから、たくさん預けられない』などとケチをつけてどんどん母牛を引き上げられ、今では500頭しかいない。母牛が減れば預託料は減ります。返済計画は700頭で立てているわけだから、借金地獄になる。自転車操業になっても借金を返すためには、安愚楽を簡単に辞めるわけにいかないんです」

 「安愚楽の牛焼くので忙しい」

 沖縄県那覇市在住の年老いた牧場経営主は93年に安愚楽の委託を始め、思わぬ形で早い時期に撤退を余儀なくされた。その経緯はこんな具合だ。

「私は石垣で繁殖牧場、鹿児島で肥育牧場を持っていて、ピーク時に3000頭ずつ、計6000頭の安愚楽の牛を預かっていた。預託料は月に約7000万円です。ところが始めて3年ぐらい経って、突然預託料の支給を2ヵ月ストップされた。向こうに言わせればペナルティだろうけど、生き物でしょ。こっちにも言い分はあるよね。エサを食わさなきゃ牛は死んでしまうから、2ヵ月滞ったらどうにもならん。それで和議申請したが、相変わらず金は出てこない。結局安愚楽が賃料を払って私の牧場を借りることになりました。しかし、賃料で借金の穴埋めはできず、私は安愚楽に追い出された格好になった。確かに牛舎を建てるときに安愚楽は10億円融資してくれたけど、3億円ぐらいは返してますからね。それでこの10年間、安愚楽は1円も家賃を払ってくれない。その家賃で銀行に払うことになっていたのに」

 半ば”乗っ取った”石垣の繁殖牧場が紆余曲折の末、人手に渡り、2年前に後継として石垣島北部の伊原間地区に設けた安愚楽の新直営繁殖牧場がある。だが、その評判は芳しくない。

「母牛2500頭に対して人工授精師の資格者は2人しかおらず、実際に無資格者が種付けもやっていて誰がどの牛に種付けしたのかもよく分からない状況になっていると、安愚楽の職員から聞いています。また、この牧場では昨年1年間に子牛だけで550頭以上が死んでいる。いま現在ここで飼養している子牛は2000頭弱だから、すごい事故率です。死んだ家畜を焼く最終処分場の職員が『安愚楽の牛焼くので忙しいよ』とこぼしているほどです。ちなみに安愚楽の体質に我慢が出来ず、2年前に撤退した業者の一つは200頭の自家母牛で繁殖を続けていますが、昨年は子牛の死亡ゼロで農業共済から表彰され、石垣全体の子牛の発育部門で優勝しています」(石垣島の和牛繁殖事情に詳しい専門家)

 こうした生々しい証言に安愚楽は何と答えるのか。取材を申し込むと、代理人の弁護士が文書で回答するという。畜産に関する問題を法律家が答える理由が分からないが、紹介しよう。

 まず、授精証明書の偽装について。

「契約に基づき、『黒毛和牛』の繁殖を委託しており『その他』と称される牛の委託はしておりません。弊社の所有する牛はすべて黒毛和種です」

 トレサビで履歴が確認できないことについて。

「農林水産省で定める情報の公表をしており、これをもって十分なものと解しております」

 ペナルティについて。

「元気な子牛を生産してもらうことを目的としてペナルティーのみならず報奨金の支払も制度化しております」

 指定配合飼料で牛が体調を崩したり、種付きが悪くなる牛が続出しなかったかどうかを問うと、

「そのような事実はありません」

 委託牧場に母牛や種牛の血統も知らせない理由、子牛の事故率については「企業秘密」を盾に回答を拒否した。

 ファンドに牛を育てられるのか

 安愚楽は約2年前からペナルティを強化し、拡大路線を進める契約内容に変更を始めた。繁殖牧場から、「濡れ子」と呼ばれる生後間もない子牛を引き取って大規模な牧場で管理する方法で、石垣島の新直営牧場はその一つだ。

 ある委託繁殖農家が言う。

「畜産担当の専務は25万頭まで増やしたいと吹聴してる。要するに安愚楽をファストフードみたいにどこで切っても同じものが出てくるような仕組みにしたいんだろう」

 安愚楽が「濡れ子」集荷に切り替えた契約書では、2項目の守秘義務も加わった。13条(守秘義務の厳守)「本契約業務にかかわる全ての情報を契約期間内及び解約後を問わず外部に漏洩してはならない」としたうえで、17条(守秘義務)で「①飼料の内容、配合②ワクチン接種プログラム、給餌マニュアルの内容③個体の血統、指定交配、繁殖状況、頭数④委託料」と具体的に定めている。

 村上ファンド事件で、我々は出資者や資金運用について謎に包まれた投資ファンドの存在を知ったが、安愚楽の徹底した秘密主義はファンドに酷似している。なるほど、オーナーにとっては、遅配が一度もない優秀なファンドかもしれない。しかし、投機の対象は食べ物であり、生き物であり、それを育てているのは血の通った人間だという意識が、安愚楽という業者には決定的に欠落しているのではないか。

 かつて安愚楽の経営にも関わっていた繁殖農家はこう呟いた。

「人材は育ってないのに、牛の頭数だけが増えた。ここ5年ですっかり変わった。牛のことを分かってない奴が農家を管理してるんだもの。ハートのない奴に、牛屋をやってほしくないね」

我々消費者にとって大事なのは、弁護士に守られたファンドの企業秘密ではない。安全な食物を作ってくれる農家と、口に入るまでの履歴が分かるガラス張りの経営なのだ。

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おおひら・まこと 1965年、神奈川県生まれ。
毎日新聞入社後、大阪本社社会部などを経て、東
京本社社会部で調査報道を担当。07年からフリー

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2008年の月刊現代記事をみんなで読もう(ほとんど事実でっす)
2011-12-14(00:33)
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No title

2008年にすでに、安愚楽の記事があったなんて、、、、内容は、よく調べてありますね。また自己嫌悪になります。和牛詐欺も読みました。読めば読むほど、敵は、狡猾で、組織的で、大きな権力で、私たち、オーナーをカモにしていたんですね。情けなか、、、、、、。

ニライカナイさま、コメントありがとうございます。
同感です。知るたびに、見るたびに、陥る自己嫌悪、、、。
強くなったけどね・・・ま、ふぁいとぉ~~、かな(*^^)v
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roko1107

Author:roko1107
安愚楽牧場にひっかかった者です
あれから人生変わりました
あくまで私個人の日記です
あくな人はイヤよん (^o^)

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